7月の展示替えを行いました<そのA>

7月4日から、展示が一部替わりました。

今回は、壁面展示作品を数点ご紹介します。

壁面展示では、大正時代を代表する歌人の歌集の中から、装幀にこだわった本を選んでいます。

作品にかける作家たちのこだわりを、本の装幀から感じていただければと思います。

また、野田宇太郎が編集に携わった同人誌「人間連邦」と「大正および大正人」もご紹介しています。

こちらが壁面展示の様子です。

色紙も展示替えごとに入れ替えを行っています。

色紙に書かれているのは、

「幾山河 こえさりゆかば 寂しさの はてなむ國ぞ けふも旅ゆく」

という若山牧水の有名な短歌です。

北原白秋(1885〜1942)の歌集

『雲母集(きららしゅう)』(大正4年、アルス)

です。

この本の装幀と4枚の挿絵は北原白秋自身が描いたものです。

表紙のタイトルは「蕪(カブ)と河豚(フグ)」とあります。

この不思議な組み合わせの理由は、「地面と野菜」の章の

「投網うちの帰途」の中の

「蕪の葉に濡れし投網をかいたぐり飛び飜(かえ)る河豚を抑えたりけり」

という歌から来ているものと思われます。

「閻魔の反射」というタイトルの絵です。

この章の中には

「赤き日は人形のごとく鍬をうつ悲しき男を照らしつるかも」

という歌があります。

『雲母集』は白秋が三浦三崎に居た時のことを詠んだ歌です。

「地上に湧き上がる新鮮な野菜や溌剌と鱗(うろこ)を飜(かえ)す

海の魚族は私の真実の伴侶であった」

と白秋は語っています。

三崎での田園生活を代表するイメージが、

表紙にも描かれた蕪と河豚だったのかもしれません。

與謝野晶子(1878〜1942)『旅の歌』(大正10年、日本評論社)です。

装幀は、染色工芸家の廣川松五郎(1889〜1952)が担当しています。

廣川松五郎は帝展でも活躍し、東京美術学校(現在の東京芸術大学)

の教授を務めたこともある人物です。

布張りで、いかにも染色家らしいデザインの装幀です。

『旅の歌』の中です。

黄色の部分は、よく見るとさらに白抜きで模様が表現されています。

これも廣川松五郎のアイデアでしょう。

左の絵は、石井柏亭(1882〜1958)のものです。

この本には、他にも石井柏亭や中澤弘光(1874〜1964)の

油絵のカラー図版が数枚収められており、

当時としては、とても豪華な本でした。

晶子の夫、與謝野寛[鉄幹](1873〜1935)の訳詩集

『リラの花』(大正3年、東雲堂)です。

左はケースです(ケースは展示していません)。

絵は洋画家、梅原龍三郎(1888〜1986)が手掛けました。

いかにも梅原らしい豪快なタッチで人物や背景が描かれています。

この『リラの花』は、晶子との結婚後、不振に苦しんだ寛が

再起を賭けた作品でしたが、あまり良い評価を得られませんでした。

島木赤彦(1876〜1926)の

『柿蔭集(しいんしゅう)』(大正15年、岩波書店)です。

日本画家、平福百穂(ひらふくひゃくすい)(1877〜1933)が

装幀を担当しました。

百穂は、伊藤左千夫(1864〜1913)と親しくなったことで、

アララギ派の歌人としても活動しました。

写真では分りにくいのですが、鯉や梅の花は光沢のある銀色が

使われています。

色数を抑えた、上品で落ち着いた表紙です。

大正時代の本をご覧いただける貴重な機会です。

ぜひ、お気に入りの一冊を見つけて下さい。

皆さまのご来館をお待ちしております。