8月の展示替えを行いました

8月4日から、展示が一部替わりました。

中央ステージ、展示ケース、壁面展示スペースと常設展示の一部です。

今回は、特集展示として、「日本のおばけ」に関する本を集めました。

"おばけ"といっても幽霊や怪談話だけでなく妖怪などが描かれた作品も展示しています。

文学者たちが書いた"おばけ"は恐怖を表す、という単純なものではなく、彼らが伝えたいメッセージが

様々な"おばけ"の姿を通して、表現されています。展示している作品の中から数点ご紹介します。

常設展示パネル「背に廻った未来」コーナーの展示品を

入れ替えました。

こちらが新しく展示した「博物館明治村絵図」です。

版画家としても名高い木田安彦(1944〜)が手掛けました。

鮮やかでカラフルな色合いが、楽しげな明治村の雰囲気を

感じさせます。

また、金額も1円80銭と高額で、文章も子供向けではないことから、

これは「赤い鳥」を購入している親に向けた広告だと

考えられます。(大正8年頃、蕎麦1杯が7銭でした)

こちらは「中央公論」昭和10(1935)年10月発行のものです。

右の写真は、雑誌内の佐藤春夫(1892〜1964)の写真です。

この号では佐藤春夫の「化物屋敷」という作品が掲載されており、

彼自身が体験した話として書かれています。

「化物屋敷」は、いわゆる怪談話なのですが、"おばけ"的な何かが出てきた、

という類の話ではありません。怪異の内容さえ、事細かに語られてはいないのです。

けれど、淡々とした佐藤の文章がじわじわと怖さを増幅させる効果を生み出しています。

この作品の冒頭で、佐藤春夫は、"化物屋敷"にそれまで6、7度住んだことがあり、すべて偶然の

結果だった、と記しています。

ある意味、すごい運の持ち主であったようです。

全文を読まれたい方は、『文豪怪談傑作選・特別篇 文藝怪談実話』(筑摩書房 2008年)他、いくつかの本

(『日本怪奇小説傑作集1 』東京創元社 2005年、『定本 佐藤春夫全集 第10巻』臨川書店 1999年、等)

に収録されています。

なお、『文豪怪談傑作選・特別篇 文藝怪談実話』は、小郡市立図書館でも所蔵しております。

小川未明(1882〜1961)の

『赤い蝋燭と人魚』(大正10年、天佑社)

です。(展示しているのは復刻版です)

小川未明の代表作であり、テレビではアニメや人形劇に

なっているので、ご存知の方も多いと思います。

少しでも売れるようにとの苦肉の策であったのでしょう。

このお話では、人魚の母親は人間の優しさに期待して自分の子供を人間に託すことに決めますが、

お金に目の眩んだ老夫婦によって、その気持ちは裏切られてしまいます。

"人魚"という異形の者に対する人間の残酷な行いは、ともすれば違う外見や考えを持つ人間を排除しようとする

私達の愚かさを見せつけているようです。

さて、『赤い蝋燭と人魚』の本の序に小川未明はこんなことを書いています。

「(前略)愛は自分から他に及ぼす波動に過ぎない。而(しか)も異つた體(からだ)に同一の心臓が

鼓動して居る。そこが藝術の鍵である。それだから私は、子供に對(たい)して愛あるものゝみが童話を

書く特権を有して居ると思ふ。(後略)」

この文に小川未明の童話に対する信念が現れていると思います。

芥川龍之介(1892〜1927)の『河童』です。

昭和2(1927)年2月の雑誌「改造」(改造社)に掲載された

作品で、芥川の晩年の代表作です。

今回展示している『河童』は、「芥川龍之介歿後五十年記念出版」

として昭和52年に限定300部で東出版から発行されたものです。

ある精神病患者が語る話として物語は描かれています。

河童の国に迷い込んだ彼は、人間社会とは正反対の河童の

社会に遭遇します。

ここでは、人間社会への批判とするために、河童の世界は表現

されています。

河童が登場する作品をもう一つご紹介します。

『キリシタン河童』、火野葦平(1907〜1960)の作品です。

昭和35(1960)年に、私家版として青園荘から限定100部で

出版されました。

火野葦平は、河童が出て来る作品を多く描いた作家で、

河童に強い魅力を感じていたようです。

キリシタンの人間の娘に恋をした河童の十郎は、恋ゆえに

洗礼を受け、やがて島原の乱にも加わることになります。

火野は、河童を人間より純粋で義理がたい生き物として描きました。

最後に、「赤い鳥」(大正13年11月、赤い鳥社)の、

小川未明の「幽霊船」をご紹介します。

(展示しているのは復刻版です) 「幽霊船」は次のような話です。

漁に出た2人の友人の帰りを待っていた男の目に、

船の影が見えます。

ところが、それは幽霊船で、それを見た男は気が狂ってしまいます。

そして、本物の友人たちが乗った船が近づいてきたとき、

男は恐怖のあまり銃を手にしてしまうのです…

実は、ラストは、子供むけらしく、めでたし、めでたしで

終わるお話です

この他にも、壁面展示スペースでは、野田宇太郎が編集に関わった同人雑誌「連峰」シリーズと、

キリシタン関係の資料を展示しています。

また、『昏れゆくギリシア』(昭和51年9月 潮流社)収載の野田宇太郎直筆詩稿「霧」も展示しています。

皆さまのご来館を心よりお待ちしております。