「新収蔵品公開 川端康成からの手紙〜川端康成特集〜」 

5月14日(木)から、常設展の展示に切り替わりました。

それに伴い、中央ステージ、展示ケース、壁面展示スペースの展示も替えています。

今回は「新収蔵品公開 川端康成からの手紙〜川端康成特集〜」です。

当館で新たに収蔵した野田宇太郎宛の川端康成の書簡を今回初めてご紹介します。

また、川端康成の著作の他、野田が川端の作品について記した自筆原稿も展示します。

こちらが野田宇太郎宛川端康成の書簡です。

便箋3枚に書かれています。

小説家・川端康成(1899〜1972)は、ご存知の方も多いと思いますが、

日本人初のノーベル文学賞を受賞した人物です。

野田宇太郎と親交があり、野田が小山書店に勤務していた頃

〔昭和15(1940)年〜昭和18(1943)年〕に知り合ったようです。

書簡の用件は、牛島春子(うしじまはるこ)(1913〜2002)の作品集を文藝春秋社の満州支社で

出版させてやってくれないだろうか、というものです。(当時、牛島は満州に住んでいました)

細かく読んでいくと、もともとは、野田宇太郎が牛島春子の作品集の出版の世話をしていたこと、

川端も牛島からその話を聞いていたことも分かります。

しかし、文藝春秋から、牛島春子の作品集を出版したいので、と斡旋を頼まれた川端が、経緯を知っていたため、

野田に連絡を取ったのだと考えられます。

牛島春子は、久留米出身で、野田宇太郎が久留米にいた昭和7(1932)年前後に知り合っていたようです。

また、牛島と川端を引き合わせたのも野田だと考えられます。

当館には、牛島春子から野田宇太郎に宛てた書簡が数多く残っています。

その牛島の書簡から、この作品集は、文藝春秋から出版されることに

なったことが分かります。

この経緯が分かるのが、昭和19(1944)年2月27日付の左の写真の

書簡です。

ただ、結局、戦争の混乱の中、この作品集の話は立ち消えになって

しまいました。

川端康成『落花流水』〔昭和41(1966)年、新潮社〕です。

こちらは、随筆集で、この中に川端自身が「字のことなど」として、

自分の筆跡について書いている章があります。

川端は、横光利一(よこみつりいち)(1898〜1947)、菊池(きくちかん)(1888〜1948)、

片岡鉄兵(かたおかてっぺい)(1894〜1944)、林芙美子(はやしふみこ)(1903〜1951)の

墓石の文字を書いたそうです。

(片岡鉄兵は胸像の土台の銘ですが、これも墓標に類する、としています。)

川端はその字について"字をみるのはつらい"、"墓の字を恥じる"、"親しい人の墓を悪筆で汚した"などと

いていて、よほど自分の字に自信がなかったようです。

「字のことなど」の最後に川端はこうも書いています。

"悪筆のつぐないに、天平の写経でも一巻ずつ、四人の墓におさめようかと考えた。

しかしそれも、古写経の値が高くないにしろ、いやしくも千年伝えられた美を、四点滅ぼすことは思いとどめた"と。

川端自身が言うほどの悪筆ではないと思うのですが、当館で展示している川端の書簡の字そのものにも

注目してみてはいかがでしょうか。

川端康成代表作の一つ、『伊豆の踊子』〔昭和2(1927)年3月 金星堂〕の

初版本です。

川端は伊豆を愛した作家としても有名です。

この本の装幀は、舞台装置家・吉田謙吉(1897〜1982)が担当し、

吉田は、わざわざ川端が宿泊していた湯本館を訪れてスケッチを

描きました。

川端は、この装幀をとても気に入り、"『伊豆の踊子』は、湯ヶ島温泉の

着物を着ている"と喜んだそうです。

川端秀子『川端康成とともに』〔昭和58(1983)年、新潮社〕です。

川端康成の妻・秀子夫人から見た川端康成の姿が書かれています。

買い物好きで、なかでも、なぜか蚊帳が好きだったらしく、

貧乏な新婚時代に高級な蚊帳を買うほどだったこと、

どこにでも夫人を連れていったことなど、妻の視点ならではの、

川端の人間味溢れる姿が見えてきます。

その他、川端についての噂や誇張された話などについても

真実を明かしています。

こちらは、中央ステージに展示している野田宇太郎の直筆原稿

(200字詰原稿用紙19枚)です。

写真は1枚目、2枚目です。

タイトルは『「森の夕日」と「山の音」―川端康成の近作に就て―』です。

昭和24年9月27日、と日付が入っており、おそらくNHKのラジオの

放送原稿だと思われます。

1枚目は濃く丁寧な字で書かれていますが、書くにつれて、

最後の方は字が流れ、筆がのってきていることが分かります。

すべての原稿を展示することはできないので、今回は1枚目と19枚目を

並べています。

こちらでご紹介した他にも『雪國』や『愛する人達』など、川端康成の著作を中心に展示をしています。

常設展パネルでも、野田宇太郎と川端康成の関係についての解説がありますので、

そちらも合わせてご覧いただきたいと思います。

川端と野田の関係が分かる貴重な書簡ですので、この機会にぜひご覧ください。

皆様のお越しを心よりお待ちしています。