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常設展の展示替をしました~「安西均生誕百年特集 詩人・安西均」~2018年3月

テーマ展示「安西均生誕百年特集 詩人・安西均」

 2018年3月6日から、常設展の一部を展示替えしました。
 3月のテーマは「安西均生誕百年特集 詩人・安西均」です。

IMG_4984.JPG資料館入口展示の様子

 安西均(あんざい ひとし、1918~1994)は、筑紫郡筑紫村大字筑紫(現・福岡県筑紫野市筑紫)出身の詩人です。本名は、「やすにし ひとし」ですが、東京に出た際に、皆が「安西」を「あんざい」と読み、本名の「やすにし」と読む人がいなかったため、「あんざい ひとし」をペンネームにしました。しかし野田にとっては、「やすにし」の方が親しみやすかったらしく、生涯、安西のことを「やすさん」と呼んでいました。

 安西は、昭和8(1933)年、15歳の頃、石川啄木(いしかわ たくぼく、詩人・歌人、1886~1912)に影響を受け、短歌を始めました。18歳の時、同郷の先輩で詩人の岡部隆介(おかべ りゅうすけ、1912~2001)の詩に影響を受け、詩を発表し始めます。翌年、岡部の紹介で野田宇太郎や丸山豊(まるやま ゆたか、詩人・医師、1915~1989)と知り合い、さらに詩作に没頭していくようになりました。

IMG_4981.JPG壁面コーナーの展示の様子

 その後、故郷を離れ、やがて東京で就職し、昭和18(1943)年頃には、帰郷。新聞記者として働きながら、詩人として活動を続けます。昭和21(1946)年には、「九州文学」(復刊)に参加し、同年11月には、岡部隆介らと「九州詩人」を創刊、さらに翌年には、丸山豊主宰の詩誌「母音(ぼいん)」に同人として参加するなど、福岡の詩史を語る上で、なくてはならない重要な役割を果たしています。
 再び上京した後は、「歴程」や「地球」「山の樹」などの文芸誌に参加しました。
 昭和30(1955)年に、37歳で第一詩集『花の店』(学風書院)を出版し、以後も精力的に詩人として活動、亡くなる前年に最後の詩集となった『指を洗ふ』(花神社)まで、12冊の詩集を世に出しました。特に第10詩集『チェーホフの猟銃』(花神社)では、第7回現代詩人賞を受賞しています。

 その他の安西の活動として、昭和46(1971)年、53歳で日本現代詩人会理事長に就任、63歳の時には日本現代詩人会会長となり、「現代詩人賞」の創設に尽力したことが挙げられます。また、評論集『私の詩史ノート・Ⅰ』(思潮社)や『戦後の詩』などの著作もあります。安西は、日本を代表する詩人の1人となりました。

IMG_4979.JPG中央ステージ

 さて、中央ステージでは、「抒情詩」とその目次パネル、そして、安西均の葉書を展示しています。実は、この葉書は、今年度の企画展「野田宇太郎―激動の時代を駆けぬけた編集者―」の時に展示していたもので、今回、再度この葉書を展示したことには意味があります。と言うのも、安西均の経歴に関わる資料として大きな価値があるからです。

 野田宇太郎は、昭和15(1940)年5月頃上京し、出版社・小山(おやま)書店に就職します。それからしばらくして、安西も野田の誘いで小山書店に入社しました。この「しばらくして」というのが、どのくらいか曖昧なのですが、『安西均全詩集』(1997年 花神社)の年譜によると、おそらく同年の秋頃であろう、と考えられていました。ところが、この葉書の消印は昭和16(1941)年8月23日で、5月に家を離れたこと、いつかは東京に出たいという安西の思いが綴られています。

 つまり、この葉書は、安西が昭和16年に家を出て、小山書店に就職したことを裏付ける資料です。また、このことによって、野田の働きかけや言葉にも説得力が出てきます。安西はふらっと小山書店の野田を訪ね、「職を得なさい」といった野田の言葉で、そのまま小山書店に就職したそうです。これが昭和15年のことだとすると、まだ野田自身も入社して半年足らずですが、1年後であれば、野田は小山書店で文芸誌「新風土」を担当し、自信もついていたころで、安西を入社させてくれるよう社長に頼むこともできたと思われます。安西への声かけは、この頃の野田の自信と生活の充実の表れと見ることができるでしょう。

 実は、野田宇太郎文学資料館としても安西均とは深いつながりがあります。第1回野田宇太郎生誕祭の際、当館からの依頼に応えて、安西は「野田宇太郎さんの人柄と業績」という演題で、記念講演を行っています。

 現在、故郷の筑紫野市内には、安西均の碑が筑紫神社と筑紫野市民図書館前にそれぞれ建っています。どちらも安西の故郷への想いが感じられるものです。お近くの方はぜひ訪ねてみられてはいかがでしょうか。

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筑紫神社境内「遥かな古代」碑

IMG_4931.JPG筑紫野市民図書館前「天拝古松」詩碑

 今回の展示は4月1日(日)まで開催しています。詩パネルや著書など、安西均の世界の魅力をたっぷりご紹介しています。皆様のご来館を心よりお待ちしています。