メニューにジャンプ コンテンツにジャンプ

常設展の展示替をしました~新収蔵品紹介「秋萩帖」の謎~2018年4月

テーマ展示 [新収蔵品紹介「秋萩帖」の謎]

2018年4月2日から、常設展の一部を展示替えしました。
4月のテーマ展示は"新収蔵品紹介「秋萩帖」の謎"です。

秋萩帖表.JPG

「秋萩帖」

「秋萩帖(あきはぎじょう)」は、平成29年度に野田宇太郎文学資料館に新たに収蔵された資料です。
大きさは縦が10cmを少し超えるくらいで小型の本です。

「秋萩帖」は蛇腹折で両面に書かれており、野田宇太郎を含めて全部で21人の人物(主に文学者)が、名前と簡単な言葉を寄せていますが、書かれた時期も昭和29(1954)~34(1959)年とバラバラで、全員の関係性も曖昧です。

さて「秋萩帖」とありますが、内容は特に秋に関わりがあるわけではありません。おそらく、名前は国宝「秋萩帖」に由来しているものと考えられます。

国宝「秋萩帖」は、平安時代に書かれた巻子本(巻物)です。古今集の和歌を書いた第一紙と万葉集などの歌を書いた第二紙、および中国の書家・王羲之(おう ぎし)の書状を写した部分から成っています。第一紙は小野道風(おのの とうふう)、第二紙は藤原行成(ふじわらの ゆきなり)の筆と伝えられています。

小野道風、藤原行成は平安時代の三蹟であり、王羲之を含め、優れた書家に関係の深い国宝「秋萩帖」の名前を付けたということは、それくらい所有者にとって大切なものであったということでしょう。実際には、当館所蔵の「秋萩帖」がどこで、誰の依頼によって書かれたものかは分かっていません。ただ、「秋萩帖」のなかの幾人かの言葉に「川越」や「喜多院」という文字が入っているので、元々の所有者は埼玉県川越に住んでおり、おそらく文学に造詣の深い人物であろうと推測されます。

秋萩帖野田.JPG

野田宇太郎自筆部分

こちらが、「秋萩帖」の野田宇太郎自筆部分です。

「歴史は 前進し 精神は 遡る
 野田宇太郎
 昭和廿九年七月四日」

と書かれています。

この「秋萩帖」の一番最初に言葉を寄せているのが野田宇太郎です。昭和29年、野田宇太郎はすでに「文学散歩」で名を馳せ、全国を取材で歩き回っていました。「歴史は前進し精神は遡る」という言葉は「過去とは背に廻った未来である」という、野田宇太郎が生涯大切にした木下杢太郎の言葉にもつながります。

他に「秋萩帖」に言葉を寄せているのは、署名が読めた人物で、
福田清人(ふくだ きよと)、奥野信太郎(おくの しんたろう)、村雨退二郎(むらさめ たいじろう)、木村毅(きむら き)、亀井勝一郎(かめい かついちろう)、小松清(こまつ きよし)、細田源吉(ほそだ げんきち)、近藤市太郎(こんどう いちたろう)、中谷孝雄(なかたに たかお)、保田輿重郎(やすだ よじゅうろう)、佐藤春夫(さとう はるお)、荒城季夫(あらき すえお)、池田弥三郎(いけだ やさぶろう)、高橋邦太郎(たかはし くにたろう)、庄司浅水(しょうじ せんすい)、大林清(おおばやし きよし)、佐藤佐太郎(さとう さたろう)です。

野田宇太郎とも関わりのある人物も多く、この「秋萩帖」については、今後の調査にご期待下さい。両面に書かれていますので、4月17日(火)より、裏面側を展示します。ぜひとも、表面と裏面の両方をご覧下さい。

今回の展示は4月29日(日)まで開催しています。これから、お出かけにも良い暖かい春の日が続きます。どうぞ野田宇太郎文学資料館に足をお運び下さい。皆様のお越しを心よりお待ちしております。