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常設展の展示替をしました~【資料館所蔵資料から見る野田宇太郎と火野葦平】~2025年3月・4月

2025年3月20日に常設展の展示替を行いました。

3月30日(日)に開催される坂口博さん講演会「野田宇太郎と火野葦平」に合わせて、「資料館所蔵資料から見る野田宇太郎と火野葦平」のテーマで展示を行っています。

福岡県出身の野田(1909年小郡市松崎生まれ)と火野葦平(1906年北九州市若松生まれ)は歳も近く、同じ時期に福岡で文学活動に励みました。
その後、野田が東京の出版社で編集者として活躍した際には、火野の著書の編集・装幀を行なったり、火野を雑誌の編集顧問に迎えたりと両者の交流は深まりました。
今回の展示では、火野の著作物とともに、野田が所蔵していた火野葦平関連の資料を紹介します。

【壁面展示】
資料館入って左側の壁面には、火野葦平の著書8冊を展示しています。
 

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「山上軍艦」(1937年 とらんしっと詩社)は、この年に勃発した日中戦争で召集された火野のため、友人の原田種夫が出版に奔走した火野の処女詩集です。
火野の友人、青柳喜兵衛の装画が美しい一冊です。
「糞尿譚」(1938年 小山書店)は久留米の文芸同人誌「文學會議」に掲載され、その後第6回芥川賞を受賞した一冊です。
地方の同人雑誌による無名作家の受賞は芥川賞初となりました。
「糞尿譚」掲載を悩んでいた「文學會議」主宰の矢野朗の背中を押したのが自分であると、野田は自著「母の手鞠」(1975年 新生社)で回想しています。
「傳說」(1941年 小山書店)は、河童の登場する作品を集めた短篇集です。
小山書店で駆け出しの編集者として働き始めた野田が、校正・装幀を手掛けました。
火野から野田への献呈署名入りの一冊です。
「石と釘」(1945年 東京出版)も河童の登場する作品を集めた短篇集です。
表題作は高塔山にある「河童封じの地蔵尊」の伝説にまつわる話です。
東京出版で編集者として働いていた野田が出版を手掛けました。
火野から野田への献呈署名入りの一冊です。
上記以外にも、火野の代表作である「兵隊三部作」(「麦と兵隊」「土と兵隊」「花と兵隊」)や、「詩集 青狐」「革命前後」など、火野の様々な一面を知ることができる著書を展示しています。

【のぞきケース展示】
ステージケース裏のぞきケースでは、野田宇太郎が遺した火野葦平の手紙や原画、野田が火野について書いた雑誌記事などを展示しています。

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1944年11月、野田が責任編集者として創刊した雑誌「文藝」では火野葦平を始めとして、太田正雄、豊島与志雄、川端康成の四名を編集顧問に置きました。
記念すべき創刊号の巻頭を飾ったのは戦線から帰還したばかりの火野葦平で、短篇「新戦場」を発表しています。
展示では、「文藝」創刊号(1944年 河出書房)の「新戦場」掲載ページと併せて、火野葦平がこの作品のために描いた「新戦場」の挿絵原画(火野の直筆画)を紹介しています。
「野田宇太郎宛 火野葦平書簡」は、1947年4月に野田が創刊した雑誌「藝林閒歩」の8月号に火野が「新月」を発表した件について、発売時期と原稿料を尋ねた書簡です。

原稿料の小切手が、火野の住む北九州の若松ではなく福島県の会津若松に届いたようで、「会津若松までとりに行けませんから、(一笑)もう一度わが若松の方へ書きかへて、送らせて下さいませんか」と書かれており、火野と野田の親しさが伺える内容となっています。
雑誌記事「別れ」(「酒」1960年 酒之友社)と「火野葦平の死」(「古酒」1960年 新樹社)は、1960年の火野の死(後の1972年に自殺と発表)に際して野田が書いた追悼記事です。
「別れ」では、戦時中の思い出や最後に会った日のことを、「火野葦平の死」では火野葦平・矢野朗との出会いと思い出、火野葦平にたかる連中への憤懣などを書いています。
火野の死後すぐに建設が計画された「火野葦平文学碑」では、野田も建設期成会の世話人の一人として、設計者の谷口吉郎を仲介し、建碑資金の調達にも関わるなど、構想段階から力を尽くしました。
碑に刻む作品については、当時様々な案が出ましたが、火野が色紙にしたためた四行詩の前半二行部分を刻むことを野田が推挙し、決定したと言われています。
展示では「火野葦平文学碑」の説明パネルとともに1960年8月1日の除幕式で参加者に配られた「火野葦平文学碑除幕式式次第」
を紹介しています。

【ステージケース】

そして、資料館入って正面のステージケースでは火野葦平著「キリシタン河童」(1960年 青園荘)を展示しています。
筑後川の河童十郎坊がひょんなことからキリシタンの洗礼を受け島原の乱に参加するこの物語は、限定100部の私家版で挿画・挿絵は孔版画家の若山八十氏です。
表紙下部一帯に河童の進軍が染められ、表紙の中央にはガラス絵嵌め込まれるなど、とても凝った作りになっています。
装幀の美しさをぜひ近くでご覧ください。

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3月のテーマ展示【資料館所蔵資料で見る野田宇太郎と火野葦平】は4月15日(火)までの展示となります。
皆様の来館をぜひお待ちしています。 

【2025.03.25 H】