常設展の展示替をしました~【日本郷土文芸叢書の世界】~2025年4月・5月
2025年4月17日から常設展のテーマ展示コーナーを「日本郷土文芸叢書の世界」になっています。
「日本郷土文芸叢書」とは、昭和35(1960)年から、野田が刊行していた近代名著の初版複刻本シリーズです。
野田は常々、優れた文学者や作品の名が観光土産の食べ物や営利目的の宣伝に使われることに違和感をいだいていました。
作家の名前をつけたお菓子ばかりでなく、もっと文学ゆかりの地にふさわしい、文学的なものを「みやげもの」にできないか…
そこで考え出したのが、その土地でしか買えない郷土ゆかりの復刻本「日本郷土文芸叢書」でした。
今回は「日本郷土文芸叢書」全9冊とともに、野田が復刻版制作のために入手・参考にした初版本も展示します。
野田の復刻版制作にかける情熱をぜひ感じてください。
【壁面展示】
資料館入って左側の壁面には、日本郷土文芸叢書の9冊を展示しています。
●シリーズ1冊目「一握の砂 函館版」石川啄木∥著 野田宇太郎∥編纂 1960年 森屋(函館市)
は、野田が函館の講演会で提案した「啄木ゆかりの函館で美しい函館版「一握の砂」を作ってお土産品にしてはどうか」という言葉に、デパート森屋の社長が興味を示し出版が実現しました。
●シリーズ2冊目「吾輩は猫である 明治村版」夏目漱石∥著 野田宇太郎∥校訂並に制作 1965年 明治村(犬山市)
は、本郷千駄木「森鷗外・夏目漱石住宅」が、野田も理事を務める明治村に移築保存されることを記念して出版されました。
初版本をもとに、上中下巻を1冊まとめた縮刷・復刻本です。
小口と地がアンカット(未裁断)で、天金、付録はページを切り開くペーパーナイフ(かわいい猫の顔付き)です。
●シリーズ3冊目「武藏野 武藏野市民版」國木田獨歩∥著||野田宇太郎∥校訂編纂 1965年 武藏野市
は、武蔵野市が独歩を記念して刊行した”官製”の出版物です。
内容は「武蔵野」の完全復刻ではなく、武蔵野に関する独歩の詩や日記の抜粋等で、野田が作った武蔵野の地図も収録されています。
●シリーズ4冊目「思ひ出 柳河版」北原白秋∥著 野田宇太郎∥校訂並に制作 1967年 御花(柳川市)
は、立花家が出資者となり出版されました。
内容は「思ひ出」初版の完全複刻版ですが「初版には著者も気づかなかった手違ひなどもあるので、全部新らしい活字で原版通りに組」んだ野田の苦労作です。
●シリーズ5冊目「白秋小唄集 柳河版」北原白秋∥著 野田宇太郎∥校訂・制作 1969年 北原白秋生家保存會(柳川市)
は、白秋生家の母屋が復原されたのを記念して出版されました。
「華麗な小型本で、その初版を、活字だけは新しく組んで他は用紙も表紙もすべて初版通りにした」と野田が語るように、矢部季(資生堂デザイナー)が装幀した初版(~31版)を完全に再現しています。
日本郷土文芸叢書で唯一、2025年現在も販売されている一冊です。(北原白秋生家・記念館で販売されています)
※展示本は天地と小口を金(三方金)にした特製版となっています。
●シリーズ6冊目「文づかひ 明治村版」森鷗外∥著 野田宇太郎∥校訂・意匠・制作 1970年 明治村(犬山市)
は、鷗外が住んだ千駄木町の家が明治村に移築保存されていることにちなんで出版されました。
この家で書かれた「文づかひ」を含むドイツ3部作(他「舞姫」「うたかたの記」)が収録されています。
●シリーズ7冊目「五足の靴 柳川版」五人づれ∥著 野田宇太郎∥編集校訂 1978年 ちくご民藝店(柳川市)
は、柳川の割烹旅館「松月」に「五足の靴」の碑が立てられたのを記念して出版されました。
1949年に野田が発見した「五足の靴」ですが、全文が一冊の本として出版されたのは当時初めてでした。
(その後2007年に岩波文庫から出版されていますが、2025年現在品切れとなっています)
●シリーズ8冊目「一握の砂 歌集 明治村版」石川啄木∥著 野田宇太郎∥校訂・意匠・解説 1980年 明治村(犬山市)
は、この年に啄木旧居「本郷喜之床」が明治村に移築・公開されたことを記念して出版されました。
この家で啄木は「一握の砂」を出版しました。
初版本を元にした縮刷・復刻本です。
●シリーズ9冊目「獨身 豊前小倉版」森鷗外∥著 野田宇太郎∥制作監修 1982年 森鷗外記念會(北九州市)
小倉北区鍛冶町に残っていた鷗外の家が「森鷗外旧居」として一般公開されることを記念して作られました。
鷗外の小倉3部作(「鶏」「獨身」「二人の友」)や評論が収録されています。
表紙のデザインは、鷗外の「即興詩人」の表紙を参考にしています。
【のぞきケース展示】
ステージケース裏のぞきケースでは、野田が日本文芸叢書を作る際に参考にした初版本を展示しています。
●「一握の砂 歌集」石川啄木∥著 1910年 東雲堂書店<野田旧蔵の初版本>
●「吾輩ハ猫デアル」夏目漱石∥著 1978年 日本近代文学館 <初版本(明治38(1905)大倉書店・服部書店)の復刻本>
→<野田所蔵の初版本>は貸出中で、現在全国を巡回しています!
●「武藏野」國木田獨歩∥著 1901年 民友社<野田旧蔵の初版本> ※野田が誂えた(職人に作らせた)帙箱も同時展示
●「思ひ出 抒情小曲集」 北原白秋∥著 1911年 東雲堂書店<野田旧蔵の初版本> ※野田が誂えた(職人に作らせた)帙箱も同時展示
●「白秋小唄集」北原白秋∥著 1919年 アルス<野田旧蔵の初版本>
●「白秋小唄集」北原白秋∥著 1923年 アルス<野田旧蔵の改装訂正版(32版)・函なし>
→野田が「白秋小唄集 柳河版」の内容本文を校正する際に使用した32版も同時展示しています。
(装幀は恩地孝四郎に、表紙は赤絹金押しに、本文の飾り枠は「思ひ出」と同じ赤枠に変更されています)
のぞきケース最後は、野田がイギリスのストラッドフォード・アポン・エーヴォンのシェイクスピアの生家で買った本です。
●「The Shakespeare Birthday Book 」(「誕生日の本」) William Shakespeare∥著 出版年不明 COTMAN HOUSE
●「The Sonnets of William Shakespeare」(「ソネット集」)William Shakespeare∥著 出版年不明 COTMAN HOUSE
「この本はシェイクスピアの生家で求めた」とセピア印刷された小さい紙が裏見返しに貼られており、野田はこの本をシェイクスピア生家の売店で見つけた時、「わが郷土文芸叢書の同志がゐたといふうよろこびを覚えたもの」と回顧しています。
【ステージケース】
こちらも野田が日本郷土文芸叢書を作る際に参考にした初版本を展示しています。
●「文づかひ 新著百種第十二號」鷗外漁史[森鷗外]∥著 1891年 吉岡書籍店<野田旧蔵>
「文づかひ」は吉岡書籍店発売の定期刊行叢書「新著百種」で発表されました。
この号には「文づかひ」と、幸田露伴∥著「眞言秘密 聖天様」の2作品が掲載されています。
●「即興詩人」 [ハンス・クリスチャン・アンデルセン∥著] 森林太郎[森鷗外]∥訳 <野田所蔵 上巻:1908年(4版) 下巻:1902年(初版本) 春陽堂>
アンデルセンの自伝的小説で、鷗外が約10年かけてドイツ語版から翻訳し、雑誌「志がらみ草紙」などで発表しました。
表紙の構図が日本郷土文芸叢書9冊目『獨身 豊前小倉版』に使われています。
4月のテーマ展示【日本郷土文芸叢書の世界】は5月20日(火)までの展示となります。
皆様の来館をぜひお待ちしています。
【2025.05.08 H】