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楽しみ方のルール

 昨年、久しぶりに文楽を観に行った。2つあった演目のうちの1つが「日高川入相花王(ひだかがわいりあいざくら)」の渡し場の段だった。
 渡し場の段は、歌舞伎では道成寺物といわれている「安珍・清姫伝説」の『恋仲だと思っていた安珍に裏切られた清姫が、日高川の向こう岸の道成寺に逃げた安珍を追いかけ、最後は大蛇になって川を渡る』という場面。
 
 最初に太夫が鑑賞ポイントを教えてくれた。清姫が日高川の船頭(安珍の味方)と「乗せろ」「だめだ」の押し問答の末、絶望や執念のあまり清姫が大蛇になり、一瞬で顔や着物が変化する場面とのこと。私はワクワクしていたが、実際興奮したのはその後の場面だった。
 
 大蛇となり、川に飛び込んで両手を広げてバシャバシャと泳ぐ清姫、鬼の形相で泳ぎ迫ってくる清姫に恐怖して逃げ惑う船頭、その周りで日高川の水の流れを布を大きく上下させて演出する黒子たち。そんな混沌と化した舞台に、「清姫行けー!」とばかりに両手を握り締め心の中で声援を送り、鼻息を荒くしてしまった。清姫を遣う方々も含め良かった。清姫の両手を必死に伸ばさせ、髪の毛をぐるんぐるん振り乱させ、足をバッタバッタ泳がせる。
 文楽は1体の人形を3人で操るが、頭と右手を操る人は黒衣と頭巾をせず顔を見せた状態で演じる。ただし、顔を見せていようと黒衣を着ていようと、「そこにいないもの」として鑑賞するのが文楽ルールやマナーみたいなものだ。けれども日高川横断は彼ら(川面役の方々含め)の頑張る姿も見て、ワンチームで成し遂げるいう感動を生んでいる。「わっしょいわっしょい、みんなで目指せ!道成寺!」
 
 渡り切った清姫に拍手が起こる。「待っておれ安珍!」と走り去る清姫の背中が頼もしい…。その後の安珍の悲劇はさて置き、達成感が凄かった。
 文楽を含め古典芸能には色々なルールがある。そのルールに則ることもひとつの楽しみではあるし、そのルールの範囲内であれば、楽しみ方は人それぞれあっていいはず。たとえ人に「そこじゃない」といわれたとしても。
 

(担当:K)