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「1枚の絵に会いに。」

 秋も深まってまいりました。みなさまいかがお過ごしでしょうか。

 こんな季節ですから、絵の話をひとつ。

 私は美術館が好きです。美術を専門に学んだわけではないし、絵を描く趣味があるわけでもないので、作家や作品について語れるような者ではないのですが、美術館の雰囲気が心地よく、時間があるときは旅先でも必ず立ち寄ります。

 ところで、あなたは絵を鑑賞するとき、添えられたキャプション(タイトルや作家名などが書かれた案内)をじっくり読む派ですか、読まない派ですか?

 私は後者の方です。まったくではないのですが、チラ見程度。

 学芸員の方が熟考して行われたであろう展示の順序も無視し、絵の前に人だまりができていれば先に進んで、空いてるところから鑑賞する。美術館の鑑賞道があるとすれば、きっと道にはずれていると思われますが、自己流で楽しんでいます。

 そんな私が、思わずキャプションを見て確認した1枚の絵があります。「玉蟲先生像」。安井曾太郎、昭和9年の作品です。

 その肖像画に、描かれている男性は和装。眼鏡をかけ、座布団のうえにきちんと正座しています。膝におかれた手は、左手はかたくこぶしをにぎり、右手が添えてある。若干、緊張気味なのか、作画のためのモデルにお疲れ気味なのか、何とも言い難い表情で、身体が少しだけ右に傾いているように見えます。

 それまで、肖像画についてはほとんど興味がなく、わりにサッと絵の前を通り過ぎていたのですが、この「玉蟲先生像」は、描かれている人物の魅力か、安井画伯のみごとな筆の力によるものか、絵の前を離れがたく、しばらく「玉蟲先生かぁ...」と見入ってしまいました。

 その後、久留米市の石橋美術館(現・久留米市美術館)を訪れるたび、「玉蟲先生」に会えるかな、と楽しみにしていましたが、残念ながら数回お会いしたきりでした。

 今まさに、芸術の秋真っ只中。あなたも1枚の絵に会いに、美術館へお出かけになりませんか。