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「西條八十に寄せて」

 愛猫が毛糸を食べる。
私が精魂込めて毛糸から作った鈴入りボールや、うっかり放置した毛糸玉まで、クッチャクッチャと食べてしまう。

 ある日帰宅すると、彼女が惨殺した毛糸ボールの残骸が散乱していた。
嘆きながら骸を回収していたが、鈴が見つからない。
「毛糸ごと食べた!?」と慌てふためきながら、腹から鈴の音は聞こえぬかと、愛猫をシェイカーの如く振ってみた。
ガタガタと猫を揺すってみたものの、着たままだったコートのチャックが鳴って何が何だか分からず、さらに抱っこさえも嫌いな猫が鈴より先に音を上げた。
これはもう上から出るか、下から出るのを待つしかないと諦めた。そして先日、カラフルな固形物を発見。
猫必殺リバースで上から出したらしい。
振って鳴らしてみるのも憚られ、早々に捨てた。あの中に鈴が入っていればよいのだが...。

 物を失くすと、西條八十の詩の一節を思い出す。

「母さん、私のあの鈴、どうしたんでせうね?」